2016年11月2日水曜日

「日本」「伝統」「工芸」本来のよさを、よりくっきりと。 お金をかけるより、知恵をしぼる。 中川政七商店の「奈良博覧会」が、すごいワケ

すごいんです、秋の奈良は。
正倉院展があるので。平日のバスもいっぱい。
鹿たちも、外人さんたちからせんべいもらって、うはうはです。

それ以上に、すごいんです。
中川政七商店の「奈良博覧会」。

中川政七商店は、創業の地である奈良県内よりもむしろ、
すでに全国で「超有名な」ブランドです。
中川政七商店の名前は知らなくても、
新幹線の中で異彩を放ち、誰もが一度はクギづけになるワゴン販売
「走る日本市」を見た人は、きっと多いと思います。















ちょっと書き方を変えましょう。
「お金をかける価値のある本物がほしい人」に「超有名な」ブランドなんです。
もう少し突っ込みましょう。
「新しいことや本物に感度が高く、それを手に入れるゆとりのある人」に
「超有名な」ブランドなんです。

10月11日の記者発表に参加させてもらって
驚かされたのは
岩手県の南部鉄器も、新潟県燕三条の刃物も
地元では、なかなか注目してもらえていなかったということです。
それどころか
刃物職人さんたちが自分の子どもさんに
「こんな素晴らしい仕事をしている」と誇りをもって語ることすら、できていなかったそうです。
そんなんでは、後継者が育つのも難しいでしょう。

中川政七商店の社長、中川淳さんは記者発表で言ってました。
「私たちが」。
「私たちが、産地の外から、素晴らしいと断言することで、変えていきたい」。
「博覧会という、モノ、食、コトの集まるお祭り空間だからこそ、変えられる」。
産地だけでは、どうにも変わらなかったこと。
それを「私たちが」。


事実、東京、岩手、長崎、新潟と全国5か所で空前の集客。
岩手の集客18000人は、なかなか出ない数字じゃないでしょうか。
しかも、
「お金をかけずに、知恵をしぼる」という、やり方で。
たとえば「ものづくり学校」をして、産地を体験してもらう。
しょぼんとしていた産地も、
「できることはないか」と自ら動きはじめて、
「博覧会」をきっかけに、一大ムーブメントが巻き起こったそうです。

narantoという雑誌で取材した頃から、
中川さんは強調していました。
「ブランディングで、現状を変えることができる」ということ。
私はブランディングについて詳しくはないので、
大学の講義でも、
中川政七商店のブランディングを生の題材に、
「ブランディングが、いかに強いのか」について教えました。
「自分の潜在価値」に、
まだまだちっとも自信のもてない大学3年生に。

そこで話したのは、
「ブランディングは、本来もっているよさを決して失わせない」。
無理に何かを盛ったり、奇抜なスパイスをふる必要はない。
「本来もっているよさを、客観的に見つける、これが難しいけど、すべての鍵」。
産地の外から、素晴らしいと断言することの重要性です。
「宣伝にお金をかけなくても、光の当て方に知恵をしぼれば、いい噂はすぐに広がる」。
中川さんは「まずは一番星を点灯させること」と言ってました。
光をあてれば、そこが輝く。
自分たちで難しかったのなら、外から光をあてればいいんです。
















奈良博覧会に行ったら、
もともとおいしいマフィンの数々に、奈良の山の名前がついてました(出店「ナナツモリ」)。
奈良でとれるおいしい果実が、ドライフルーツやシロップになって、
年中楽しめるように工夫されてました(出店「堀内果実園」)。




奈良博覧会の会場でお客さんの目に飛び込むのは、
にわかじたてのゆるキャラなんかではなく、
奈良ざらしを扱う老舗として中川政七商店が300年つむいできた足跡と、
奈良の地に今も息づく一刀彫をはじめとする伝統工芸の粋。
もっとすごいのは、人間と工芸との過去と未来に思いをはせることのできる屏風絵でした。




便利だから、すぐ手に入るから、ものを買います。
でも、気持ちがゆさぶられたり、心地よさが続くのはもっと大事です。
働いてお金がほしいから、就職します。
でも、自分がどんな生き方をするのかは、お金を稼ぐより大事です。

何を買うか。何を食べるか。何を体験するか。何に時間を費やすか。
ひとつひとつの積みかさねで、一生が変わる。















奈良博覧会の内容は、
中川政七商店のホームページでどうぞ。
http://www.yu-nakagawa.co.jp/top/

(ライティング:久保田説子)