2015年12月25日金曜日

『嫌われる勇気』~ベストセラーを生み出す編集力

これからマネージャーの市川です。

2015年もあともう少し。
今年は、サイトのリニューアルや
人材の募集に力を入れたこともあり、
情報収集のため
ビジネス書をよく読みました。

その中で、今年最も影響を受けた書籍がこちら。

「嫌われる勇気-自己啓発の源流「アドラー」の教え」
 著者:岸見一郎 , 古賀史健  担当編集:柿内芳文

ご存知の方も多いと思いますが、
国内で89万部、韓国で75万部、台湾で21万部(2015年12月現在)
の売上だそうで、出版不況が叫ばれる中、
2013年12月の発売にもかかわらず、
売れ続けているようです。

この本を読んで、
すっかりアドラー思想が、
自分の考え方のベースになったし、
子育てについても、アドラーの
いわゆる「勇気づけの子育て」実践中
というくらい影響を受けたので、
今年のマイベストブックといえるのですが、
世の中に数あるアドラー本のなかで、
なぜ、この本だけが特によく売れているのか、
そちらにも興味がわいてきました。

もちろん、ウェブ媒体ともからませた
広報戦略も大きいでしょうし、
「ベストセラー」「売り上げ第1位」などのキーワード
があれば、それだけで手にする方も多いでしょう。
ただ、発売から2年たっても売れ続けているので
それだけが理由でもなさそうです。

なぜ、「嫌われる勇気」が売れ続けるのか。
私なりに、考えてみました。

・あえて「アドラー」を前に出さないキャッチーなタイトル
・本の装丁
(単行本だけどハードカバーにせず、何度も読み返すことを想定?)
・帯の伊坂幸太郎氏の推薦文
・哲学者と青年の対話形式の採用
・章タイトルのセレクト

アドラー本であるという理由以外で
ぱっと思い浮かんだのがこれくらい。
で、じーっと考えてると、これって、
編集者の力が大きく影響してるよね~
と感じました。

となると、俄然、リサーチ魂がむくむく。
さっそく、担当編集者柿内芳文さんを検索、検索。

結果、対談やコラムがたくさん出てきました。
そして、一つ一つ読んでいくと、
やっぱりなぁと、納得、たくさんの気づきがありました。

正解のない時代を勝ち抜く武器「納得解」とは?
コルク 柿内芳文×電通 小布施典孝(電通報)

編集者の棚 第2回 柿内芳文さん
(MARUZEN&JUNKUDOネットストア内コンテンツ)

吉田尚記×柿内芳文 「嫌われる勇気」特別対談
「人生を変える劇薬 「アドラー心理学」がいまの日本に必要なワケ」(cakes)

星海社・柿内芳文の僕たちの武器に消費期限はあるのか?(「新文化」オンライン)

上記の対談の一つで、柿内さんが
「はじめに」の部分でどれだけ読者の感情を揺さぶれるか、
「はじめに」に命を懸けている、とおっしゃってるんですが、
確かに、「嫌われる勇気」の「はじめに」にあたる部分には、

人は変われる、世界はシンプルである、誰もが幸福になれる

人は誰しも、客観的な世界に住んでいるのではなく、自ら意味づけをほどこした
主観的な世界に住んでいます

問題は世界がどうであるかではなく、あなたがどうであるか

など、読者の心を揺さぶる文句が並べられています。
それも、読者をひきつけた理由の一つでしょう。

古賀さんと岸見先生の対談によると
アドラー心理学に初めて出会った人の反応は、
「目からウロコが落ちた」という驚きと
「ものすごく腑に落ちた」という共感の
の2種類に分かれるそう。
そのどちらであっても、斬新な考えゆえに、
疑問がたくさん湧き、
読者にとっては、一人称の本だと
直接著者に質問をぶつけることは
できないため疑問が残ったままになってしまう。

確かに、岸見先生の講演会に足を運んだことがあるのですが、
質疑応答タイムの挙手の多さと
疑問を解決しようという皆さんの熱意はすごかった!

そういった「問題」を解決するために、どうすればいいか。

柿内さんは、岸見先生の元へ、ライター古賀さんと共に通い、
毎回5時間程度のインタビューを6~7回行い、
それを元に構成案を練り、執筆に2年かけて完成させたといいます。

ライター古賀さんの「岸見アドラーの決定版となる本を作りたい」という
10年越しの思いを編集者柿内さんがくみ取り、
岸見氏との対話を通じて、本という形にしていく。
その過程で、アドラー心理学に出会って柿内さん自身がどう感じたか、
そして、本を通じてアドラー心理学に出会う読者がどう感じるのかも
徹底的に考え、「問題」の解決方法を模索する。

その結果、
読者が抱くであろう疑問を丁寧に拾い上げ、
それに哲人が答えるという対話形式の採用に
たどり着いたのだと思います。

「伝えたい」という著者の思いと
「知りたい」という読者の思いを
みごとにつなげた編集者柿内さんの
「編集力」のすごさを見た気がします。

最近、次世代編集者がクローズアップ
されているという情報をよく目にします。
ビジネスの世界でも「編集力」は、
これから必須のスキルになるといわれています。

情報をそのままアウトプットする
だけではその情報は価値を持たず、
「伝えたい」相手に「伝わる」形で
発信してこそ、意味がある。
そのためには、「編集力」が必要。

それを実感した2015年の年末なのでした。



株式会社これからでは、
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